Episode 0:Vol.1「英国への未練と、不時着」
【すべての根源:All You Need Is…】
僕の店、fealの掲げるキャッチフレーズは「All You Need Is Pie」。
そのルーツは、20数年前、中学時代の英語の教室にあります。 教科書の内容なんてほとんど覚えていませんが、先生が授業で流してくれたビートルズのメロディだけは、僕の胸の奥に深く突き刺さりました。
「All You Need Is Love(愛こそはすべて)」
理屈を超えて、たった一行で世界を肯定してしまうようなその力。
「いつか自分も、こんな風にシンプルで、でも誰かの人生に欠かせない何かを作りたい」
その時芽生えた小さな種が、後にパイという形になって花開くことになります。
【サッカーが消えた後の、モノクロの日々】
小学校、中学、高校と、僕の人生のすべてはサッカーでした。
朝から晩までボールを追いかけ、それ以外の目標なんて持ったこともない。
今、パイショップの他に「feal futsal park」を運営しているのも、その時の情熱が僕の身体に染み付いているからです。
しかし、高校3年の冬。
引退を告げる最後のホイッスルが鳴った瞬間、僕の人生は一気にモノクロになりました。
追いかけるべきボールを失い、自分が何者なのか、明日から何を目標に生きればいいのかさえ分からない。
グラウンドを離れた僕を待っていたのは、ただ時間だけが過ぎていく、ひどく退屈で不安な日々でした。
【深夜の英国・ドリーム】

そんなある日の深夜。 誰もいない部屋で、ぼーっと眺めていたテレビ画面に釘付けになりました。
流れてきたのは、Oasis の歪んだギター。
傲慢なまでに自信に満ちた歌声。
「……ここだ。英国に行けば、僕の新しい人生が始まる」
サッカーを失った僕が、初めて見つけた光。
僕は夢中で英国留学について調べました。
しかし、現実はあまりに冷酷でした。 意を決して親に相談した僕に返ってきた一言。
「ロンドンの留学費用、高すぎるよ…」
【消去法と、不時着の旅立ち】
僕の英国留学の夢は、予算という壁にあっけなく砕け散りました。
「英語圏なら、もうどこでもいいや……」
そんな投げやりな僕に、高校の先生が勧めてくれたのがオーストラリアでした。 母校がオーストラリアに姉妹校を持っていたこともあり、当時はインターネットも普及してない中、少しは情報がありました。
ただ、当時の僕には「物価が安くて、治安がいい」という、夢も希望もないほど現実的な理由だったのです。
オーストラリアについて知っていることといえば、綺麗なビーチとカンガルーとコアラだけ。
期待1割、不安9割。
OasisのCDをウォークマンに入れ、重いスーツケースを引きずって福岡空港から飛行機に乗り込んだ僕。
ロンドンに振られ、消去法で選んだその未知の大陸が、僕の人生を180度変える場所になるとは、その時の僕はまだ、知る由もありませんでした。