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Vol.3「孤独なペダルと、聖域」

【17歳の洗礼と、手書きの地図】

ベジマイトの衝撃に打ちのめされながらも、なんとか1日を過ごした僕。
家の中では、フロッピーディスクを差し込んで使う、重くて不器用な電子辞書が唯一の相棒でした。
それを常に持ち歩き、家族とのコミュニケーションを必死に繋ぎ止めていました。

翌日から、いよいよ語学学校。
初日は17歳の次男が車で送ってくれましたが、翌朝、僕に渡されたのは、古びたヘルメットと一枚の紙きれでした。そこには、お世辞にも綺麗とは言えない、彼の手書きの地図が描かれていました。

「今日からは、君はこの自転車で行け」

彼がそう言った(たぶん)瞬間、僕の「本当の一人旅」が始まりました。

【Oasisと、サーファーズへの疾走】

ゴールドコーストの住宅街・Benowa(ベノワ)から、観光の中心地サーファーズ・パラダイス(Surfers Paradise)のカビル・アベニュー(Cavill Ave)へ。 ソニーのウォークマンから流れる Oasis の歪んだギター。 ロンドンへの未練、英語への不安、そしてこの先どうなるか分からない自分への焦り。

それらすべてを振り切るように、僕は必死にペダルをこぎました。
照りつける太陽と、手書きの地図。 不安が胸を締め付けるたびに、僕はボリュームを上げました。

【聖域への扉、運命の出会い】

なんとか学校には着いたものの、授業が終わればまた「孤独」がやってきます。
一番の難問は、ランチでした。 どこに入ればいいのか。何をどう頼めばいいのか。
迷いに迷い、吸い寄せられるように入ったのが、あのカフェでした。

重い扉を開けた、その瞬間。
目の前に現れたのは、磨き上げられた綺麗なガラスのショーケース。
そして、その中に整然と並ぶ、こんがりと焼けた「茶色い塊」たち。

オーストラリアのミートパイ

「あ……これなら、指をさせばいいんだ」

言葉の壁にぶつかり続けていた僕にとって、そのショーケースは初めて見つけた、誰にも邪魔されない「聖域」のように見えました。

僕が初めて、自分の意思で「This one, please.」と口にしたあの日。

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