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Episode 0:Vol.2「ベジマイトの洗礼」

【朝7時、ガレージが拓く新世界】

無事にブリスベン国際空港に到着。
「Coach」と呼ばれたバスに揺られ、辿り着いたのはゴールドコーストのBenowa(ベノワ)という住宅街でした。
時刻は、まだ朝の7時頃。 目の前に現れたのは、まるで映画に出てくるような立派な3階建ての邸宅。これが僕の新しい居場所、ホームステイ先でした。

綺麗な青空の下、緊張で強張った指でインターフォンを押すと、大きな音が響き、目の前のガレージの扉が静かに上へと収納されていきました。 足元から少しずつ見えてきたのは、ガウンを羽織った一人の女性。ポルトガル系オーストラリア人の、この家の「ママ」でした。

「アーユー、トシ?」

「イエス」

それが、僕が絞り出せた精一杯の英語でした。
中へ案内される間、彼女は微笑みながら優しく話しかけてくれましたが、僕には何一つ理解できない。
日本人特有の、あいまいで心細い笑顔を浮かべて、ただ頷くことしかできませんでした。

【目覚め、そして最初の一口】

3階の自室に案内され、重いスーツケースを置く。 ベッドに腰を下ろした瞬間、張り詰めていた糸が切れたのか、朝だというのに僕はそのまま深い眠りに落ちてしまいました。

数時間後。目が覚めて恐る恐る2階のリビングへ下りていくと、そこには僕と同世代の男がいました。この家の次男(17歳)です。 言葉の通じない僕に、彼は身振り手振りで「飯を食え」と促してくれました。

差し出されたのは、こんがり焼けたトースト。 その上には、見たこともない真っ黒なジャムのようなペーストがたっぷりと塗られていました。

ベジマイト

「ベジマイトだ」

親切な彼への感謝を込め、僕はそれを大きく一口頬張りました。

「……不味っ!!」

鼻に抜ける強烈な匂いと、経験したことのない奇妙な塩辛さ。 ロンドンに振られ、英語も通じず、ようやく辿り着いた異国で最初に出会った味は、僕の期待を木っ端微塵に砕くには十分すぎるほど強烈でした。

期待と不安が1対9だった僕のオーストラリア生活は、こうして「強烈な味」と共に幕を開けたのです。

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